『イオンワンパーセントクラブ賞』【普及・啓発部門】「京都府立宮津天橋高等学校 フィールド探究部」
2004年の台風23号により甚大な被害を受け、大規模に改修された京都府宮津市の大手川。京都府立宮津天橋高校フィールド探究部の生徒たちは、あるとき改修後の高い堤防に囲まれた大手川を見ながら「自分たちはこの身近な川について何も知らないのではないか」と疑問を持ちました。そこから、大手川の豊かな生態系や住民の川への愛着を取り戻す挑戦がスタートしました。
- 活動団体
- フィールド探究部
- 活動人数
- 40人
- 主な活動時間
- 部活動として
- 最終審査会発表生徒
- 井笹大己
小西泰志
- 担当教員
- 多々納智
2004年10月の台風23号で氾濫した大手川は、2011年までかけて大規模な河川改修工事が行われ、川幅が広くなり堤防も高くなりました。これにより安全性が高まりましたが、あるときフィールド探究部の部員は水路のようなその姿を見て思いました。「自分たちは改修後の大手川しか知らず、川で遊んだ経験もない。こんなに身近な川なのに何も知らないのではないか」。
そして、大手川は河川改修で生態系が変化するとともに、地域の人たちの川に対する意識も変化したのではないかと考え、2021年から調査をスタートしたのです。最初は生態系の変化を調べるため、大手川の生物について、丹後土木事務所のデータと自分たちの調査結果で経年変化を比較しました。すると、河川改修工事の前後で生息する魚に大きな変化があり、カワムツが減少する一方でハゼの仲間が急増するという、興味深い結果が得られました。
ハゼが好む「砂地」が増えカワムツが好む「瀬」が減少した調査結果から、大手川は流れが単調になったと考えられました。このため、滋賀県立大学の瀧健太郎教授に指導を仰ぎ、土のうを積んで人工的に流れの速い瀬や流れの緩やかな淵を作る「バーブ工」を設けることにしました。すると、アユが瀬に集まる様子が確認できるなど、多様な生物が棲みつく環境を作れることがわかりました。
一方、地域の人たちには、大手川に対する意識についてアンケートを実施。「行政に砂上げをしてほしい」「昔は子どもが川で遊ぶのが当たり前だった」などの声が聞かれ、そこからは川に対する課題意識であったり、子どもたちに川に親しんでほしい思いも見えてきました。そこで、子どもたちが大手川についてもっと知ったり遊んだりできる場所が必要と考え、長く放置されている「親水公園」を川に親しむ拠点として再生する活動を始めたのです。
活動を始めてみると親水公園再生は苦闘の連続でした。地域の人たちと草刈りをしても草はまたすぐに生えてきてしまい、溝掘りをしても大雨が降ればあっという間に土砂で埋まり元の状態に戻ってしまいました。それでも瀧先生の指導を受け、子どもたちが水に親しめ、湿原や池など生息するフナ類やゲンゴロウ類などの止水を好む生物の生息場所や増水時の避難場所となるビオトープをデザイン。丹後土木事務所の協力で造成してもらい、大雨でも埋まりにくく子どもが安全に入れる池づくりに取り組み、緑のある景観も残しながら、ビオトープを作り上げたのです。
また、これらの活動と並行して地域から依頼を受け小学生向けの川体験イベントにも参加し、自分たちの活動を向上させるヒントをたくさん得ました。さらに、公益財団法人リバーフロント研究所の協力を得て「水辺の小さな自然再生の学習会」を実施しました。
「大手川の魅力を伝えたい!」。そんな思いで、2023年にはフィールド探究部主催による川イベントを親水公園で2回開催。1つは、上宮津自治会から子どもたちと川の勉強がしたいと声をかけてもらったイベントで、2つ目は宮津市教育委員会とのコラボで実施した、小学生が大手川に親しむイベントです。
生徒たちは、遊具の準備や子どもたちの対応、料理など得意な役割を分担。放置竹林で作った水鉄砲で遊んだり、川で獲ったアユをフライにして食べたり、川の流れに身をゆだねる体験をしたりと、安全にもしっかり配慮しながら行い大盛況でした。特にアユのフライは好評で「今まで食べた中で一番おいしい」と笑顔を見せる子どももいました。
また、かつての大手川を知る地域の人たちが、アユの引っ掛けという漁法を実演してくれるなど、幅広い年代が触れ合えるイベントを親水公園で開催することができました。
生徒たちは、こうした地域のイベントへの参加や市の広報誌による発信などに取り組むとともに、次の目標もしっかり見つめています。まず1つ目は「親水公園のより良い環境づくり」で、ビオトープの維持と生物調査に加え利活用の促進を目指します。2つ目は「川イベントの継続と拡大」で、内容を充実させより多くの人に大手川の魅力と課題を発信していきます。さらに3つ目は「地域連携の継続と強化」です。それは、地域の先人の知識や経験を学びながら、高校生・地域・行政それぞれの強みを活かす活動の実現です。そして4つ目は「流域のランクアップ」で、大手川が流れる地元宮津が海と森をつなぐ大切なかけ橋であることから、自分たちの活動をさらに充実させて多様な自然や世代がつながる輪を広げ、豊かな環境を未来に伝えていくことです。
地域の誰もが大手川で育ち、そして大手川を育てる人になり、川と共にある素晴らしい宮津を未来に継承するため、フィールド探究部の活動は続いていきます。