『環境大臣賞』【研究・専門部門】「岩手県立花巻農業高等学校 ソーセージ研究班」

長期保存できるアップサイクルソーセージをつくろう

20年以上にわたり、地元食材を使ったソーセージを製造している花巻農業高校のソーセージ研究班。地元の特産品である二子さといもの廃棄物を使ったソーセージは、なめらかな舌触りが評判の人気製品です。現在取り組んでいるのは、長期保存ができるソーセージの開発。期限切れによる食品ロスの削減を目指します。

岩手県立花巻農業高等学校
活動団体
ソーセージ研究班
活動人数
12人
主な活動時間
放課後
最終審査会発表生徒
菊池柚南
福士華花
担当教員
村上 利行
廃棄量は毎年30トン以上!? 食品ロスと農業の危機を救いたい

ソーセージ研究班のこだわりは、地域食材を使用し、地域の産業や経済の活性化を後押しすることです。主原料の豚肉は、岩手県花巻市のブランド豚・白金豚を使用。米麹を加えることで、深いうまみを出すことに成功しました。この米麹は、同郷が誇る詩人・宮沢賢治にゆかりがある水稲品種に由来します。

豚肉に合わせる原料として次に注目したのが、同県北上市特産の二子さといも。なのですが、生徒が直面したのは、毎年30トン以上にもなる二子さといもの親芋の廃棄です。

里芋は、親芋を土中に埋めて、子芋、孫芋を発芽させます。通常出荷されるのは、子芋、孫芋で、食感が落ちる親芋は廃棄されます。二子さといもは生産者の減少という課題も抱え、このままでは消滅する可能性があることも知りました。

「親芋を使用して、食品ロスと地域の農業の衰退を食い止めたい」。その強い思いが、生徒たちを駆り立てました。

飽きずに食べ続けられる味にこだわってます
オリジナルパン商品も開発 廃棄物でおいしさグレードアップ

ソーセージの製造では、食肉加工品を製造・販売する企業からアドバイスをもらっています。二子さといもを原料にしたいと伝えると、食肉加工品にはつなぎとしてでんぷんが入っており、二子さといもはその役割を果たすのではと背中を押してもらいました。

しかし添加するだけでは、おいしいソーセージにはなりません。二子さといもだけでなく、香辛料の種類や配合量などの試行錯誤を重ねました。やっとの思いで誕生したのが、なめらかな舌触りで素材のうまみを感じるソーセージです。

ソーセージをつくるだけでは決して満足しないのが、ソーセージ研究班。県内のベーカリーと共同で、花農里芋ウインナードッグを開発し、4日間のイベントで200個を完売しました。

ソーセージとウインナードッグを通じて、「親芋を捨てるのはもったいない」という認識の浸透を目指し、その未来に向かって一歩前進することができました。

二子さといもを加熱して凍らせたもの
賞味期限をのばして食品ロス削減 でも失敗の連続…

このおいしいソーセージを、いつでもどこでも安心して食べてもらいたい・・・。そのためには、賞味期限を延ばしたい。そうすれば食品ロスの対策にもなります。

ということで、まずは抗菌物質になりそうな地元食材を調査。すると、同県遠野市で栽培が盛んなホップにたどり着きました。

ホップの雌花は「毬花」と呼ばれ、ビールの苦味や香りのもとになる原料です。ホップ農家の方によると、「ホップが持つ成分に抗菌力があるので、収穫の際に傷がついても傷口が化膿しない」とのこと。そこで、ソーセージに添加した際の抗菌力を検証することにしました。

しかし、毬花を添加したソーセージを試作してみると、微生物が発生。「抗菌力を持つのは毬花ではなく、その内部の樹脂」と仮説を見直すとともに、企業の研究員からアドバイスをもらうことにしました。その結果、樹脂が持つ苦み成分に抗菌力があることが判明。さらに樹脂を80℃で加熱すると、抗菌力が安定する可能性があることがわかりました。加熱した樹脂と滅菌水を混合した溶液を、ソーセージに添加してみると・・・。

これが樹脂を混合した溶液!
ソーセージ作りの工程のなかで、成型が一番楽しいと話す生徒多数! 上達するとスピードが上がっていく
失敗は成功のもと! ついに証明できた抗菌力

残念!再検証でも微生物が発生する事態に。濃度やレシピを見直しても微生物が発生し、抗菌力を実証できません。

研究を断念する直前、生徒の一人が言った「別な方法で抗菌力を実証しよう」という声が転機になりました。早速企業の方に相談し、阻止円という実験方法を教えていただくことに。

阻止円は、有害菌を混ぜた培地の中心に、抗菌力がある溶液を添加した円形のろ紙を配置し、培養する方法です。抗菌力がある場合は、ろ紙の周りに菌の繁殖を阻止する円が現れます。

溶液を滴下して培養した結果、阻止円がはっきりと現れ、抗菌力があることを実証。人にも環境にも優しいソーセージの製品化に、期待が持てる結果となりました。

赤丸で印をつけたところが阻止円です
まだまだ続くソーセージ研究 バイオマス発電とソーセージの意外な関係

ソーセージづくりの取り組みは発展をみせ、新商品が続々と誕生しています。生徒の間でとくに人気なのが、バイオマス発電で余った熱を使って栽培されたキクラゲを、ふんだんに練り込んだソーセージ。地元のバイオマス発電事業を展開する企業から提案を受けて、開発・製造したもので、とんこつ味とアクセントの紅ショウガが絶妙なバランスです。販売会を行い、メディアで注目を集めたこともあり、地域食材の普及につながっています。

製造にあたっては、HACCPの規定にのっとった衛生管理計画を作成しています。食品の取り扱いや生徒の健康管理、設備の点検などの項目の目標を定め、製造後は達成できたかを記録。ソーセージを気に入ってくださる方々のためにも、入念にチェックします。

授業に部活動に研究にと、多忙ななかでも研究を続けるのは、ソーセージ作りが何より楽しいから。岩手県産ソーセージで、地域だけでなく、地球の未来も切り拓きます。

清掃も大切な作業のひとつ