『文部科学大臣賞』【普及・啓発部門】「大阪府立堺工科高等学校 定時制の課程 エコ・プロジェクト部」
授業でつくった包丁や線香を東日本大震災の被災地へ届けたときに聞いた、「地震発生直後はガソリンや軽油がなく、電力を確保できず困った」という声。それならばと、家庭から出る使用済みの食用油で動くバイオディーゼル発電機を自分たちの手でつくりました。さらに活動はとどまらず、廃食油などで自動車や飛行機を走らせるプロジェクトを始動。被災地支援を発端にした活動は、大空まで広がりつつあります。
- 活動団体
- エコ・プロジェクト部
- 活動人数
- 10人
- 主な活動時間
- 授業の一環として、
休み時間や放課後
- 最終審査会発表生徒
- 藤木輝星
木下倫瑛
- 担当教員
- 保田光徳
堺工科高校 定時制のある大阪府堺市は、ものづくりのまちです。生徒は、授業の一環として伝統産業である包丁や線香づくりに取り組み、東日本大震災の被災地に義援金とともに手渡しで届けるプロジェクトを続けてきました。
被災地の方々や地元の高校生との交流の中で聞こえてきたのは、「災害が起こると、電気と水がないのが一番困る」という声。ガソリンや軽油が入手できなければ、自動車を運転することはもちろん、発電もできない、さらに電気も水も使えないという状況での深刻な様子を知りました。
そこで、家庭で使った天ぷら油などの廃食油で動くバイオディーゼル発電機を、企業の協力のもと製作。油1リットルで約1時間発電できる装置を開発しました。
バイオディーゼル発電機は、小学校でのイベントでアイスクリーム機を動かしたり、イルミネーションイベントで電力の一部を供給したり、さらにこれまた自作の子ども用電動カートを充電したりと、さまざまな機会で活躍しています。
燃料である廃食油の回収にも力を入れ、回収方法の整備や周知活動も行ってきました。そのおかげで、現在では食堂などからたくさんの問い合わせが寄せられるようになり、むしろ廃食油が多すぎて回収が追い付かないのが悩みに!
発電の燃料として次に着目したのが、近年環境汚染を深刻化しているプラスチックごみです。そこで、小さくて扱いやすいペットボトルのキャップを油にするプラスチックごみ油化装置を、府内の企業の協力を得ながらつくることにしました。
粉砕機でくだいたキャップを装置に入れて溶かすという仕組みですが、最初はなかなかうまくいきません。プラスチックが溶ける400度まで温度を上げるのに、かなり時間がかかってしまいます。試行錯誤の末、プラスチックと一緒に大量の鉄球を入れることで、早く温度を上げることに成功しました。
装置の開発では、安全面にも考慮しました。油化の際に、万が一化学物質が揮発したときは警告音が鳴ったり急停止したりするよう、企業の方と相談しながら設定を組み込みました。
装置の開発にかかった期間は、わずか半年。ペットボトルのキャップからつくった油は、発電機の燃料として使用しています。
装置で油をつくるには、たくさんのプラスチックごみが必要です。学校周辺はもちろん繁華街まで活動の範囲を広げると、たくさんごみを拾うことができました。
清掃活動をしていると、地域の方から声をかけてもらうことも。ごみ拾いを通じて、地域の方とのコミュニケーションがしやすくなったのも、この活動を続けるメリットです。
本校の取り組みの内容は、地域イベントなどでも発信ししています。環境保全活動を進めるのに大切なのは、活動を多くの人に知ってもらい参加してもらうこと。地場産業の技術を生かしたオリジナルグッズをつくってイベントなどで配布し、活動への理解や協力を得ています。
取り組みを続けながら考えたこと、それは…「廃食油やプラスチックごみで、自動車を動かせたらすごいかも!」。
そう思ったら行動に移すのが、堺工科高校 定時制の生徒です。名付けて、陸の脱炭素プロジェクト。滋賀県の企業に廃食油を提供して軽油にリサイクルして、自動車を走らせています。
夢はまだまだ広がります。「飛行機を飛ばしてみたい!」。
廃食油からつくる航空燃料に取り組もうというのです。この空の脱炭素プロジェクトは、取り組みを紹介するためのイベントで知り合った大手石油会社と、日本を代表する航空会社2社とも協力しながら進めています。
プロジェクトを先導してきた藤木さんは言います。「僕たちは定時制なので、年齢はバラバラ。この仲間とワイワイとときには騒がしく活動に取り組むのが、楽しいんです」。
航空燃料づくりは本格始動したばかり。いろいろな困難が待ち受けているかもしれませんが、堺工科高校 定時制の皆さんの“ワクワク”や楽しい気持ちはその壁を上回るはずです。これからも、堺工科高校 定時制の取り組みから目が離せません。