『内閣総理大臣賞』【研究・専門部門】「鹿児島県立市来農芸高等学校 自主研究班」
世界的な食糧不足を解決する手段として注目される昆虫食。肉や大豆など他のたんぱく源と比べて生育時に必要な水の量が少なく、温室効果ガスの排出や農薬の散布といった環境への負荷が少ないことから、食用昆虫への需要は高まっています。
鹿児島県立市来農芸高校の自主研究班は、校内で飼育する薩摩鶏の飼料のたんぱく源としてコオロギの利活用を開始。生育環境や餌の種類などを調整しながら、コオロギの最適な繁殖方法や鶏の飼料づくりを研究しています。
- 活動団体
- 自主研究班
- 活動人数
- 14人
- 主な活動時間
- 休み時間や放課後
- 最終審査会発表生徒
- 福山智子
上村愛
- 担当教員
- 槇山由晃
市来農芸高校の自主研究班は、授業外に活動を行う自主的な研究グループです。主な活動内容として、数が減少している薩摩鶏の飼育をサポートするために、薩摩鶏の行動パターンに基づいた防音飼育室の開発などを行ってきました。
新たに取り組んでいるのが、昆虫を使った飼料の開発です。近年、人口増加に伴う食糧難で、人間だけでなく家畜にも新しいたんぱく源の確保が求められます。そこで注目されているのが、昆虫です。
飼料価格の高騰に悩む畜産農家の声を聞いたことや、従来の餌の食いつきが悪かったことなどもあり、生徒たちは昆虫を使った飼料の開発をスタートしました。
香川大学の教授に相談し、昆虫はコオロギを使うことに。コオロギは100gあたりのたんぱく質含有量が60gで、ほかの昆虫や従来鶏の飼料に使われる大豆と比べて20g以上多いことから、飼料にぴったりなんです。
さらに、大豆などの植物性たんぱく源と比べて、コオロギは繁殖時に必要な水が少なく、また耕作地の開拓に伴う森林破壊や、農薬による環境汚染などを防げるため、環境にやさしい原料といえます。
育てるのは、生育が早く、食料として使われることが多いフタホシコオロギと、繁殖させやすいヨーロッパイエコオロギの2種類。衣装ケースで作ったシェルターで、生育ステージごとにわけて飼育します。
しかし、飼育開始からいきなり問題が発生。最適な温度調整ができず、生存率が上昇しません。さらに、生育が早いフタホシコオロギは食欲旺盛のため、共喰いが発生し全滅することも。生き物を育てる難しさを改めて痛感し、飼育方法を見直すことにしました。
コオロギに与える餌も工夫しました。おからだと食いつきが悪く、米ぬかだと生存率が低いため、おからと米ぬかを混ぜることに。すると、食いつきがよくなり生存率が高くなりました。シェルター内に直接ばらまくと餌が傷むため、餌用の箱を設置しています。餌不足による共喰いを防ぐため、朝夕の餌やりは欠かせません。
衣装ケースで作ったシェルターはツルツルしているため、園芸ネットや新聞紙などを敷いてコオロギの足場を確保。足を滑らすことなく移動できストレスが軽減したことも、生存率を高める一因になったようです。
繁殖用のシェルターはヒーターで暖めて、繁殖を促します。産卵床は、ティッシュペーパーやキッチンペーパー、鹿沼土など、異なる資材でふ化数を比較。その結果、ガーゼを数枚敷き、その上にキッチンペーパーを設置すると、安定してふ化することがわかりました。
成虫になったコオロギは、数日間糞抜きをして冷凍。その後ミキサーにかけて、発酵飼料と混ぜ合わせます。
発酵飼料は、米ぬか、もみがら、おからといった農業廃棄物で手作り。水分量を調整し、腐葉土やもみがら燻炭を加えて、発酵がよく進むように調整しました。発酵が進む際に微生物によって生み出される熱は、コオロギのシェルターを暖めるのに利用しています。
鶏に与える従来の飼料と比べて、コオロギ飼料は1kgあたり38円を削減。鹿児島県の全養鶏羽数に換算すると、1日約6,300万円の削減になることがわかりました。また飼料を変えても卵の質が維持できたことから、コオロギの飼料化に一定の可能性を示すことができたのです。
今注目を集める昆虫飼料をいち早く取り入れたことで、日本鶏保護連盟でも紹介されるなど、県内外から高い評価を受けています。
生徒たちが目標とするのは、低コストで環境にやさしい昆虫飼料を普及し、地域を盛り上げること。そのために、まずはコオロギや環境について知ってもらうため、地域の小学校や児童保育施設を対象に、コオロギと触れ合いながら環境の大切さを学ぶエコツアーを実施。参加した子どもたちから好評のイベントとなっています。
今後も、コオロギの飼育環境の改善や生育コストの削減に向けた研究は続きます。さらに、コオロギ飼料の事業化に向けた検討も進めていきます。
わずか1gの昆虫が、地域の畜産の未来を変える日を夢見て、研究のすそ野はどんどん広がっています。