『内閣総理大臣賞』【普及・啓発部門】「熊本県立熊本農業高等学校 養豚プロジェクト」
近年課題となっている、食品の大量廃棄や飼料価格の高騰。養豚の技術や経営などについて学ぶ熊本農業高校の養豚プロジェクトの生徒は、これらの課題を解決し、持続可能な養豚を実現すべく活動しています。目指すのは、豚の飼育から加工するまでの全工程で廃棄物をゼロにすることです。
- 活動団体
- 養豚プロジェクト
- 活動人数
- 8人
- 主な活動時間
- 朝、放課後
- 最終審査会発表生徒
- 髙口真子
原田里佳子
- 担当教員
- 松本凌弥
日本の食品企業から出る食品廃棄物は、年間約300万トン。熊本農業高校の養豚プロジェクトでは、「エコフィード」を独自に開発し、飼育する豚に給餌しています。エコフィードとは、食品廃棄物を使った飼料のことです。
廃棄物の回収には、生徒自ら地域の食品企業へ足を運びます。エコフィードを作るには、納豆やきな粉、海苔など、10種類以上の廃棄物を使います。なかには郷土菓子であるいきなり団子で使用するさつまいものはしきれなどもあり、本校ならではのユニークな飼料ができあがります。
エコフィードが解決するのは、食品廃棄物だけではありません。昨今、高騰が続く飼料費の削減も期待できるのです。豚の畜産経営に占める飼料費の割合は4割ともいわれ、養豚をするうえで飼料費の削減は重要な課題となっています。
養豚プロジェクトでは、生育の全過程でエコフィードを給餌し、これまでに約2400トンの廃棄物を活用。1頭あたり年間2万円の飼料費を削減しました。
廃棄物の回収から飼料のブレンド、もちろん給餌も生徒自身でするので、活動はかなりハード。懸命に豚と向き合う生徒の姿を見て、食品廃棄物の提供を申し出てくれる企業もいます。
とはいえ、一つの学校で活用できるエコフィードの量は限られます。現状を改善するには、エコフィードを広く普及することが必要です。
地域の畜産農家も飼料価格の高騰に困っていると聞き、エコフィードを校外に広める方法を検討。畜産農家と食品企業を生徒が仲介するマッチングシステムを思いつき、Webサイトを立ち上げました。
マッチングでは、農家を近隣の食品企業と組み合わせます。そうすることで、食品廃棄物の回収にかかる手間を最小限にします。また、ミスマッチを防ぐために、食品企業から出る廃棄物の量と畜産農家で必要になる餌の量のバランスを考慮するのもポイントです。
ポスターなどでの宣伝の効果もあり、現在までに8の畜産農家と15社の食品企業のマッチングに成功しました。
畜産農家の方や食品企業の方にこのシステムを説明するときはいつも緊張してしまいますが、コミュニケーション力の向上につながっています。
養豚プロジェクトでは、飼育した豚の肉の販売にも取り組んでいます。衝撃を受けたのが、肉のかたまりをスライスする際に、大量の豚脂を廃棄しなければならないこと。エコフィードで廃棄物の削減に取り組んでいながら、廃棄物を生み出していることに矛盾を感じました。
無駄を出さないために行き着いたのが、豚脂でつくる洗濯石鹸です。地域の方との会話で、廃油を使った石鹸の存在を知ったこともきっかけになりました。
熊本産業技術センターの方から出前授業を受け、石鹸の製造方法を学習。豚脂と水酸化ナトリウムの配合を変えながら80パターンの石鹸を試作し、2週間かけて石鹸の性能を比較しました。
完成した石鹸は「シンデレラネオの輝き」と命名。市販品と比較しても高い洗浄力が特徴です。石鹸自体の成分も分解されやすく、環境負荷を抑えられます。
石鹸は、地域のイベントなどで販売し、年間60万円もの売上を達成しています。準備のために、1カ月かけて300個の石鹸を製造したことも。はじめは成型に苦戦しましたが、100個目を作るころには、スムーズに作業できるようになりました。
石鹸の製造技術は、地域の福祉施設に提供しています。施設を訪れて指導を重ね、これまでに150kgの豚脂を石鹸に生まれ変わらせました。石鹸の売上は施設の運営に使われています。また、利用者の技術訓練に役立っているとの評価もいただきました。
これらの活動を通じて、フェアトレード製品の販売会社とも協同を開始。フェアトレード認証を受けたスリランカのココナッツオイルを使った美容石鹸「美豚そぉぷ」を、新たに開発しました。
養豚を通じた廃棄物削減を機に、地域の畜産の可能性を広げた生徒たち。その勢いは、とどまるところを知りません。
熊本県では、トマトやすいか、赤牛など、県内の農林水産物を「くまもとの赤」というブランドに認定しています。生徒たちは現在、豚では初となるくまもとの赤の認定を受けるために、デュロック種と呼ばれる品種の豚を飼育中。
産まれる子豚の数が少ないことが課題で、母豚にとって最適な生育環境の模索を続けています。ブランドに認定されれば豚の販売価格が向上し、地域の畜産農家の持続可能な経営に貢献できると考えています。
また県内で問題になっている耕作放棄地で餌を作り、農業を活性化することも視野に入れています。豚のブランド化による、地域創生を目指します。
生徒たちはプロジェクトの魅力を「ほかではなかなかできない貴重な経験ができること」と語ります。地域で得た経験を、地域に還元していく─。熊本農業高校の挑戦は、まだまだ続きます!